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『親父の背中』

…というタイトルはまるで向田邦子のエッセイだが中身は映画の話。と言いつついきなり私事を申せば、筆者が生まれ育った東京の下町は古くからの問屋街。銀座や日本橋のような老舗には並ばずともそれなりの歴史を持つ職人と商人の街で、級友たちはほとんどがそうした町工場や商店の子弟だった。職住近接の街で働く親たちを見て育った彼らの多くは、今もその地で代々の家業を受け継いでいる。その中にあって少数派だった筆者のような“勤め人の息子”は、負うもののない気楽さの反面、いくばくかの寂寥感を感じてもいた。追いかけ、追いつき、追い越すべき “親父の背中”がない、というその一点で。

『ゴーストバスターズ/アフターライフ』
吉田Pのオススメふきカエル

監督:ジェイソン・ライトマン
出演:マッケナ・グレイス ポール・ラッド
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2月4日より全国にて字幕版/吹替版同時公開
→ 公式サイト

30年間にわたり原因不明の地震が頻発する田舎町。そこで暮らし始めたフィービーは、祖父が遺した古びた屋敷で見たこともないハイテク装備の数々と〈ECTO-1〉と書かれた改造車を発見する。科学者だった祖父イゴン・スペングラーは〈ゴーストバスターズ〉の一員で、30年前にニューヨークを襲ったゴースト達をこの町に封印していた。地震の原因がゴーストの仕業だと突き止めたフィービー。「なぜこんな場所に封印を?おじいちゃんが死んだとき一体なにが?」…祖父がこの町に隠した秘密に迫ろうとしたその時、ゴースト達の封印が解かれ、町中にあふれかえる。いま、ゴースト達の復讐劇が始まる――

ハリウッドにも代々の家業として映画産業に従事している人々は多い。中でも有名なのは007シリーズのプロデューサーとして知られるブロッコリ一族だろう。初代のアルバート・ブロッコリが、人気スパイ小説の007シリーズを映画化するために1961年にイオン・プロを創立、十四作目の『美しき獲物たち』からは継子であるマイケル・G・ウィルソンが共同プロデューサーとして参加し、後年の『ゴールデンアイ』からは実の娘であるバーバラ・ブロッコリがプロデューサーを引き継いでいる。映画界屈指の大ヒットシリーズは、こうしたファミリー・ビジネスとして営々と生み出されているのである。日本橋で代々ののれんを守り続ける老舗の和菓子屋と同じように。

一方、これが監督業となると若干様相が変わってくる。先代の築いた地盤と看板を背負って商いを続けるプロデューサーとは異なり、映画監督はいわば雇われの職人。スピルバーグやキャメロンのようなプロデューサー兼業の大監督はともかく、普通は己の腕一本で傑作を作り上げるのが映画監督という商売である。必要なのはひとえに個人の才能であり、おいそれと受け継げるものではないだろう。

それでも“親父の背中”を見て育ち、同じ道を選んだ映画監督は数多いる。誰もが知るところで『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィア・コッポラ監督は『ゴッドファーザー』の巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘(加えてコッポラ家は妹が女優のタリア・シャイアだったり甥っ子がニコラス・ケイジだったり、まさに映画をファミリー・ビジネスとしているあたりはイタリア系大家族の血統がなせる業か)。他にも親子そろってヘンな映画ばかり撮っているデヴィッド・クローネンバーグ(『スキャナーズ』)とブランドン・クローネンバーグ(『アンチヴァイラル』)に、こちらも変態親子(失敬)のデヴィッド・リンチ(『ツイン・ピークス』)とジェニファー・リンチ(『ボクシング・ヘレナ』)。本邦でも深作欣二・健太父子は親子二代で『バトル・ロワイヤル』の二部作を世に送り、『デンデラ』の天願大介監督は名匠今村昌平の二世である。そして本作『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の監督、ジェイソン・ライトマンもまた然り。名前を見れば一目瞭然、彼はオリジナル版『ゴーストバスターズ』の監督、アイヴァン・ライトマンの息子である。

が、前出の親子監督たちと少々異なるのは、父と息子で作風が全く違うこと。父のアイヴァンが『ゴースト~』を筆頭に『キンダガートン・コップ』や『夜霧のマンハッタン(←傑作!)』といった“これぞハリウッド”の娯楽路線まっしぐらなのに対し、息子のジェイソンは女子高生の妊娠を描いた『JUNO/ジュノ』やジョージ・クルーニーがリストラに奔走する『マイレージ、マイライフ』など、作家性の強いインディー系の作風で知られている。息子は『マイレージ~』でアカデミー賞監督賞を受賞しているが、親父のほうはどう考えても賞には縁のない(でもヒット作を撮る)職人監督。その息子が父の跡を継いで、それまでのフィルモグラフィーからすれば異色ともいえる“SFX満載の娯楽大作”を手掛けたのには正直驚いたのだが、考えてみれば監督作のほとんどで自ら脚本も手掛けているジェイソンのストーリーテリングは定評のある所。本作でも脚本を兼任する彼が、父が作り上げた「ただ面白いだけの映画」(←誉め言葉ですよ)をどんな形で再生させるのか、ここは期待したい。

そんな大作であるからして、もちろん吹替え版も同時公開。主役の少女フィービー役に大河ドラマ『いだてん』での好演も記憶に新しい上白石萌歌を迎え、梶裕貴、朴璐美、木内秀信(←そりゃポール・ラッドと言えばアントマンですから)といった芸達者たちが脇を固める。萌歌さんはお姉様が言わずと知れた上白石萌音、朴さんの夫はこちらもご存知山路和弘。吹替え版でもファミリー色の強い面々が揃っている…というのは少々こじつけが過ぎますか。過ぎますね。
→吹替え版のスタッフ・キャストはこちら

地元で家業を継いでいる幼馴染みたちも、ハリウッドで父の偉業を継承する映画監督も、そこには様々な思いがあったに違いない。身近にあった父の仕事を真似するのか、否定するのか、仰ぎ見るのか。“一子相伝”などという言葉を使えば地元の幼馴染みたちは「そんな大層なもんじゃないよ」と笑って言うだろうが、親父の背中なんぞ碌に見ないまま大人になってしまった身からすれば、やっぱりちょっと羨ましいのである。

 

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まあ、まずはここから。