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『わが心のハンナ・バーベラ』

♪トムとジェリー なっかっよっくケンカしな♪…ホントはフルコーラス歌えるんですけどこの辺で。『トムとジェリー』に始まるハンナ・バーベラ・プロダクション製作のカートゥーンの数々は、昭和三十年代生まれのテレビっ子にとっては“テレビで初めて見たアニメ”のひとつに数えられるでしょう。特にこのトムジェリは全編とにかく二匹の追いかけっこによるフィジカル・ギャグの連続で、まだ言葉のわからない幼児でもケタケタ笑いながら見られた傑作です。その愛すべきトムジェリが、ついに実写映画となって登場しました。

『トムとジェリー』
吉田Pのオススメふきカエル
監督:ティム・ストーリー
出演:クロエ・グレース・モレッツ マイケル・ペーニャ
配給:ワーナー・ブラザース映画
3月19日より全国公開中
→ 公式サイト

ニューヨークの高級ホテルに引っ越してきたジェリーと、そんなジェリーを相変わらず追いかけるトム。新人ホテルスタッフのケイラが働くそのホテルでは、世界が注目するセレブカップルのウェディングパーティが行われようとしていたが、トムとジェリーのせいで台無しになってしまう。汚名返上のためタッグを組むことになったトムとジェリーは、世界一素敵なウェディングパーティを開こうと奮闘するのだが…
  

もちろん実写と言ってもリアルなCGでとかではなく(←想像するとちょっと恐ろしい)アニメのトムジェリが実写の俳優たちと合成されてるわけですね。『ロジャー・ラビット』でもおなじみの手法ですが技術の進歩はすさまじいもので、トムもジェリーもクロエ・グレース・モレッツちゃん(もう立派なレディですから“ちゃん”は失礼かしら)を相手に堂々たる“俳優”ぶりを見せてくれます。

トムジェリの面白さと言えば、次々に繰り出されるフィジカル・ギャグの数々。まあそのほとんどは壁にぶつかって穴を開けたり潰されてぺちゃんこになったりと、トムがひどい目に合うシチュエーションなわけですが。そのテイストはそのままに、今回はセントラル・パークや五番街といったニューヨーク観光名所の実景を舞台にあの追いかけっこが展開するんですから、そりゃ楽しくないわけがない。

アニメーターのウィリアム・ハンナとジョゼフ・バーベラが設立した“ハンナ・バーベラ・プロダクション”は『トムとジェリー』を始め数々の傑作(敢えて“名作”とは言わないw)カートゥーンを生み出し、その多くが昭和三十年代~四十年代にかけて日本で放送されました。関東だと東京12チャンネル(今のテレ東ですね)の夕方6時台『まんがのくに』や『キッドボックス』の枠で、大体NHKの人形劇(ひょっこりひょうたん島とか)が終わってチャンネル変えると始まる感じでしたね。

そして特筆すべきはそうした作品の日本語吹替え版でありまして。『チキチキマシン猛レース』では大塚周夫氏のブラック魔王はもちろん、神山卓三氏のケンケン(あの笑い声!)に野沢那智さんの軽妙なナレーション。『リピーとハーディー』では愛川欽也氏のボヤキ芸と若山弦蔵氏のドスの効いたツッコミ。『電子鳥人Uバード』なんか主題歌が当時人気絶頂だったジャニーズ事務所のフォーリーブスですからね。今で言えばSMAP…は解散したか…嵐…えーと、とにかくそれぐらいの人気アイドルですよ。こうして名前を並べただけでも、子供相手の夕方のアニメ枠になんと贅を尽くした面々であることか!

これらの吹替え演出を担当したディレクターは故・高桑慎一郎氏。氏は前述のベテラン声優諸氏に加え、自身で親交があった軽演劇の世界からたくさんのコメディアンや喜劇俳優を引っ張ってきました。「さいザンス」のトニー谷、「ハヤシもあるでよ」の南利明、「おしゃマンベ」の由利徹、「やんなっちゃったァ」の牧伸二…ここは浅草演芸ホールか(わからない人はググってください)
結果、「地球を侵略するザンス!」と叫ぶ火星人や「おみゃーの血が吸いてゃーでよー!」と名古屋弁のドラキュラが、広川太一郎さんや大塚周夫さんといった歴戦の芸達者たちとギャグの応酬を繰り広げるという、目くるめくような世界がテレビの画面で展開していたのです。子供相手の夕方のアニメで。今となっては信じられない贅沢。

『トムとジェリー』もその例にもれず、初放送時にはコメディアンの谷幹一氏がナレーターを務めていました。オリジナルのトムジェリは台詞が極端に少ない(そもそも主役の二匹が喋らない)アニメなんですが、そこに谷氏の「こんちトムさんご機嫌よろしゅう…」なんて江戸弁のナレーションが入るわけです。その昔サイレント映画に弁士が「春や春、春南方のロ~マンス…」なんてカツベンをつけてたあの感じですな。スピーディーに展開するドタバタギャグの隙間に絶妙のタイミングで挟まれる名調子。アメリカ製のテレビ漫画の中に、まぎれもなく“豊かな日本の話芸”があったのです。

今回の劇場版『トムとジェリー』の吹替え版にも、今の日本語版業界を代表する芸達者の皆さんが揃っています(日本語版キャストはこちら
映画館でその“話芸”に身を委ねながら、いま自分がこの仕事してる理由の半分ぐらいはあの頃見ていたハンナ・バーベラ・アニメのおかげかなあ、なんてことを考えていたのでありました。♪ラ~リホ~
 

ハンナ・バーベラ日本語版主題歌集 [CD]
吉田Pのオススメふきカエル
画像はAmazonより)
残念ながら既に廃盤ですが…曲もさることながら、ライナーノーツに載っている高桑慎一郎氏のロングインタビューが貴重なウチの家宝