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スターチャンネル放送を祝し『LIFE!』新録制作秘話〜シルバーバス事件とプリニー式噴火事件、の巻!

前にも書きましたが、ワタクシのふきカエ仕事ってのは、残らない…放送終わると見れなくなっちゃう…。自分で作った番組と違ってYouTubeに上げて残すわけにもいかず。ソフトが収録してくれれば永遠不滅に残れるのですが、それはメーカーさん次第。こっちじゃどうすることもできない。

他局が放送してくれると、だから、素直に嬉しい。余命が延びた感じ?最近『LIFE!』のザ・シネマ新録版をBSのスターチャンネルさんがやってくださってると、ふきカエルの公式ツイートが流れてきたんで知りました。素直に嬉しいので、今回は『LIFE!』新録時の制作裏話を2つ、ここで初披露しましょう。

→スターチャンネル『LIFE!/ライフ [ザ・シネマ新録版]』詳細ページ・放送予定:2020年4/12(日)朝8時~/4/27(月)深夜4時~

[裏話① シルバーバス事件]
『LIFE』誌のフィルム管理部ベテラン社員の主人公ウォルター・ミッティー(ベン・スティラー扮演)のところに、世界中を飛び回る同誌最高のカメラマンから送られてきたフィルムのうち、「俺の最高傑作だ」というネガだけが消えており、経営陣から「早くそれ現像して見せろ」とせっつかれ、「どっかに無くなっちゃいました」とは言えないので、適当なこと言って時間稼ぎしどうにか発見しようとする。そこから地球を股にかけた大捜索の冒険が始まる、という変則トレジャーハンティング映画なわけなんですが…

経営陣の一人。経営再建のため送り込まれた、雑誌文化やフォトジャーナリズムへの愛だの想いだのなんてカケラも持ってない、でもMBAは持ってるがな、どうだ恐れ入ったか!的な、ムカつくコストカッターのリストラ屋(アダム・スコット扮演)から「早く見せろ」と急かされた時のウォルター・ミッティーの返しが、初稿では

ウォルター「シルバーバスに浸けてある (It’s in a silver bath.)」
リストラ屋「何だそれ?何を言ってるのかさっぱりだ (I don’t even know what language you’re speaking right now.)」

ト書きには「シルバーバスはウォルターの造語?」という疑問符も呈されていました。出版業界で普通に使われてるけど一般人にはわからない専門用語だったら全然OK。ザ・シネマ版には「マウント」とか「ベタ焼き」とかの語がいろいろ出てきて、むしろリアリティがあり全然ウエルカムなんですが、ただし、「シルバーバス」は耳慣れない。以下メールコピペ。

「逆にこっちは、日本の出版界の人間でも聞いたことのない語だと思います。少なくとも私は編集者時代に一度も聞いたことがない(飯森注:ワタクシ元出版業界です)。「シルバーバスに浸けてある」がはたして写真現像プロセスのどの段階のことを言っているのか、ちょっと分からない。暗室で薬材に浸しているのだろうとは思いますが。」

と、「で!? でどうしろと!? 結論は?」というフワッとしたメールをプロデューサーであるワタクシが送っちゃったのですが、演出家から返信がきました。演出家、たまったまなんですがガチの真性カメラヲタクだったのです。

「ここでは単純に「今やってます」的な言い訳で言っているだけという理解で間違いないと思います。

ただし、「現像中です」「現像液に浸けてます」などでは、トッド(飯森注:リストラ屋の名前)が理解できずイラつくという流れに持っていくにはシンプルすぎるようにも思います。いくらなんでも「現像中」の意味がわからないほど無知ではないと思いますので。

そこで、現像処理を行うときに用いる「バット」に浸けてます、というくらいがいいのではないかと。

天婦羅を揚げたりするときに使う料理用のバットもありますが、写真道具としてもそれ専用のものが出回っています。現像→停止→定着で3つ並べて使う平皿状の道具です。ウォルターであれば当たり前に言いそうであり、門外漢にとってはピンと来にくい表現となり、妥当と思います。」

これで「今バットに浸かってます」が決定稿となりました。で、それを受けての I don’t even know what language you’re speaking right now.「何だそれ?何を言ってるのかさっぱりだ」もつられて「バットだか何だか知らんが、そういうこと聞いてるんじゃない」に変更になったのですが、収録当日、スタジオでワタクシが「バットは妙案でしたね。プロは普通に使う言葉なのに素人が聞くと野球のバットしか思い浮かばない、ほどよい専門用語加減」などと雑談で言ってたら演出家が「じゃあ『バットだか何だか知らんが』を『バットだかボールだか知らんが』にしちゃいましょう」と思いつき、それをリストラ屋役の小原雅人さんには言っていただくことに。

飯森盛良のふきカエ考古学

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[裏話② プリニー式噴火事件]
ネガを探して伝説のカメラマンを追いかけアイスランドまで来ちゃったウォルター・ミッティー。そこで地元住民のガキから移動手段としてスケボーを(ウォルターはスケボーが名人級!)物々交換でもらうという展開に。キャラクターが描いてあり、言葉は通じないんだけど地元のガキに一方的に「オーディン?トール?いいね、北欧神話の神様?」と話しかけるウォルター。「トール」は、新紀元社のTruth In Fantasyシリーズを愛読してたファンタジークラスタ(俺)か銀英伝クラスタ(俺)には昔からお馴染みのカタカナ語ですが、今なら「ソー」でしょう!例のマイティなソーですよ!! 今や英語読みの方がすっかり日本語にも定着しちゃったので、「トール」→「ソー」で変更を翻訳家にはお願いしました。ちなみにThurs(ソーの)dayって「ソーの日」って意味ね。「オーディンの日」はWednes(オーディンの)dayね。

以上は余談。ここから本題。アイスランドのホテルに行って、カメラマン泊まってませんか?と尋ねると、ホテルの管理人は、尋常でない慌てふためいて様子で、車に荷物をまとめ夜逃げでもする勢いで「ああ彼?飛行機に乗るって言ってた、1時の。15分後に出る」と気もそぞろに答える。で、空港の方角に速攻で出ていくウォルターの背中に管理人は「おいちょっと待て、話は最後まで聞け!今追いかけたってどうしようもないぞ!独りで行っちゃ駄目だ!」と声を浴びせるのですが、ウォルター聞こえず出てっちゃう。この管理人、訛ってません。後で説明しますが、訛ってないと覚えといてください。

しばらくウォルターが独りで一山スケボーで坂を下りて行くと、町はなぜかモヌケの殻。そこで管理人が車で追いついて、以下、初稿台本より

管理人「ほら乗って!急いで!!!!!! エルドゴスだ!」
ウォルター「なんで人がいないんです?」
管理人「エルドゴス!エルドゴスだよ!」
ウォルター「エルドゴス?」
管理人「そうだ!」
ウォルター「えるどごす?」
管理人「ああ!」
ウォルター「それどういう意味?」
管理人「Fúnkaする!」
★ウォルター「Fúnkaって?」
管理人「Fúnkaだよっ!」
ウォルター「何それ!?」
管理人「あ゛あ゛〜!もう!! あ〜、う〜、火山のFúnka!!!!」
ウォルター「噴火する!?」
管理人「そう!!!!」

で、目の前のエイヤフィヤトラヨークトル山大噴火→迫る火砕流→全速力で車出し逃げる!というサスペンス展開になるのですが、このシーンのレコーディングが一っ番苦労した!(スタッフ的には)

『LIFE!』はアテレコがキャストのご都合で数日に分かれ、初日がウォルター役堀内賢雄さんお独りでの収録だったんですな。このウォルターと管理人の掛け合いも、ウォルター分だけ数日前にレコーディングしてあったということ。そこで★マークはすでに録音しちゃった。スタッフから「Fúnka」はuに強勢アクセントのある「Fúnka」と言ってください、管理人がアイスランド人で英語が訛ってて変なイントネーションで「Fúnka」と言っているから、ウォルターもそれが「噴火」のことを言っているのだと一瞬わからず「は?なにFúnkaって?」と、聞いた音の通りに聞き返す、という展開なのです、と賢雄さんにはご説明してあり、お相手もいないところで賢雄さんはその通りにアテてくださった。

飯森盛良のふきカエ考古学

ウォルター役の堀内賢雄さん

で数日後。管理人役の長谷川敦央さん含む皆さんスタジオに入られて、他の皆さんのレコーディングが行われたわけなんですが、ここでワタクシが疑問を呈した。気づくの遅かった!

この管理人の訛り、それをふきカエで再現しようとはここまでしてきませんでした。「ああ彼?飛行機に乗るって言ってた」とか「おいちょっと待て、話は最後まで聞け」とかいう管理人の台詞も、特に訛り無しで長谷川敦央さんには普通にお願いしました。

…いや、今どき、「あいや〜ワタシ、言葉、シャベレナイ、アルヨ。彼、ホテル、イタ。モウ、空港、行チャッタ、アルネ」みたいなのは、ちょっと差別的ですし、「アッナータワ、神オ、信ジマスカ〜?一人デ行クノワNoNoヨ、very dangerousネ」みたいなケント・デリカット風外人訛りも、若干の昭和コント感が漂ってしまう今日この頃。感動的なこの映画がブチ壊しに!

あと、リアルに日本語が訛ってる外国人に、訛った日本語でアテてもらう、というのは、そんな先例をちょっと思いつかないので試しにトライするのはリスキーすぎるのと、仮に上手くいってもそこだけ異様に生々しくて悪目立ちすることは想像に難くないので、却下。

東北弁や関西弁にするのも、アイスランドが舞台なのに、きりたんぽ鍋とか吉本芸人とかを具体的に想起させすぎちゃう。…まあ、これ以上あえて『LIFE!』と関西弁と吉本については触りませんが。原音の外国語訛りを日本の地方訛りで代用した成功例としては怪盗グルーがありますが、あれはグルー×ロシア語訛りという組み合わせの妙を断念し、その代わり、鶴瓶師匠の芸達者っぷりで新たな価値を付加した、原語版とは別の価値を持つコンテンツになっている。それは主役だから許される芸当であって、ホテルの管理人が主役や主要キャラを差し置いて異常に目立ってしまうのはバランスがよろしくない。良くも悪くも無味無臭が特徴の標準語の一択しかない。

だから、標準語で声優さんに普通に話してもらってきたのですが、では途中まで「ああ彼?飛行機に乗るって言ってた」とか「おいちょっと待て、話は最後まで聞け」とかは訛ってないのに、どうして急にここにきて「噴火」だけ「Fúnka」と、相手に通じないぐらい訛るのか?辻褄が合わない。と、スタジオでテストの後、賢雄さんパートを数日前に録り終えた後になって、ワタクシ、気づいちゃったのですな。いや、誰でもテストで音をアテてみれば変だと気づくんです。「今なんか急に語学力が低下したぞ!」と、違和感を禁じえない。

たとえば「Fúnka」を「ドッカ〜ン」として(そう置換したつもりで上を読み直してみてください)、訛ってるわけじゃないんだけど「噴火」という単語がアイスランド人なのでパッと出てこない、だから「ドッカ〜ン」で代用しようとしてるんだがウォルターは「ドッカン?何が?」と話が通じない。という流れに、この収録時に賢雄さんもいらっしゃってれば、台本をその場で変更できたでしょう。それで解決でした。

しかし賢雄さんもう今日はいらしてないんですよ!すでに★の部分いただいちゃった。ここだけ再録?それはご迷惑すぎる。★は今さら変えられないというのは大前提です。ではどうする!?

で、ここで、とり・みき先生の漫画『プリニウス』を読んでたのに救われたんですな。大プリニウスとは古代ローマの博物学者で、ポンペイ市を滅ぼしたヴェスヴィオ火山の噴火を調査に行って死んじゃった歴史上の人物。とり先生はその伝記漫画を描いておられ、単行本の各巻末には、共作者のヤマザキマリ先生との古代ローマ対談が載っている。何巻だったか忘れましたが、火山談義に花が咲き「プリニー(プリニウス)式噴火」、「ストロンボリ式噴火」について熱く語られていたことがあった。それをスタジオで思い出したのです。

皆さん口に出して発音してみていただきたいのですが、ただ単品で「噴火」と言うと、どこにもアクセントが無く平板な読みになります。しかし「プリニー式噴火」って言う時の「噴火」は、イントネーションが「Fúnka」と、uに来ますよね?それでひらめいた!で、本番では台本をこう直しました。

管理人「エルドゴス!エルドゴスだよ!」
ウォルター「エルドゴス?」
管理人「そうだ!」
ウォルター「えるどごす?」
管理人「ああ!」
ウォルター「それどういう意味?」
管理人「プリニー噴火!」
★ウォルター「フンカって?」
管理人「プリニー式噴火!」
ウォルター「何それ!?」
管理人「あ゛あ゛〜!火山の爆発!」
ウォルター「噴火する!?」
管理人「そう!!!!」

つまり、このホテルの管理人は、専門用語を知ってる、けっこう学がある人、ってことに、ここで微妙に設定変更しちゃったのです。多分オリジナルでは、ホテル業を営んでるから最低限の英語は喋れる、というキャラなんでしょうが、勝手にインテリに変えちゃいました。悪いか!火山が好きで、大学で火山学を学んだ学士で、好きが高じて活火山の麓のホテル管理人にまでなっちゃった地元住民。普段から火山を観察するのが趣味なオッサンなんですよ、ザ・シネマ新録版の非公式解釈では。だから英語ネイティヴだけどド素人のウォルターが知らないような火山学の専門用語を使って会話しちゃう専門バカ、っていう設定改変なの!なんか文句あっか!(文句のある人、ごめんなさい…命名責任は私にある)

実際にアイスランドのこのエイヤフィヤトラヨークトル火山、スタジオのWifiでググったら、間違いなくプリニー式噴火だったらしい。これ2010年に実際にプリニー式噴火を起こしてて、航空便が噴煙で運休になりヨーロッパに出張中だった同僚が帰国できなくなったことも思い出し、「これだっ!」と、プリニー噴火が最終稿になった、という次第です。

飯森盛良のふきカエ考古学

なお後日談として、この『LIFE!』新録版について、とり・みき先生が今度はふきカエ愛好家のお立場で「映画ナタリー」さんに寄稿してくださったことがあり(→ココから読める)、その中で、以上の経緯を知るよしもなく「『プリニー』とは現在僕とヤマザキマリさんが連載している『プリニウス』のこと」、「吹替の工夫による情報の補完だが、俺得でうれしい気分になってしまった」と言及されているんですが、いや、順番逆です。とり先生の『プリニウス』を読んでたからワタクシが現場で「プリニー式噴火」を思いつけたんですって。

にしてもいやはや、アメリカ映画の中に非英語話者が出てきて、言葉が通じそうで通じない、ということが展開上の重要な意味を持ったり、あと英語の方言や訛りが重要な意味を持ったりする作品(怪盗グルーのロシア語訛りとか)は、字幕でもふきカエでも、日本語版を制作するのは、なかなか苦労しますな!

[画像はAmazon.co.jpより]

 

◆関連ページ:
→「今度はベン・スティラー『LIFE!』の番だぜ!ザ・シネマ新録吹き替え計画、この場にて堂々発表!の巻」
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